松文館裁判

第一審の時は2回(斉藤環氏と藤本由香里氏が証人に立った第7回と、奥平康弘氏が証言に立った第8回)、控訴審では1回(ちばてつや氏が証言に立った第4回)の計3回傍聴に行った松文館裁判控訴審判決が出た。
報道されている通り、判決内容は、第一審判決(懲役1年執行猶予3年)を破棄し、罰金150万円に処する、というものだった。『蜜室』はわいせつか?とという点については、チャタレイ裁判で示されたいわゆるチャタレイの三要素(50年前のもの)に、四畳半裁判で示された基準(30年前のもの)を加味した判断だったそうで、第一審の中谷裁判長(どうでもいい情報だがこの人あのスーパーフリー裁判で、和田サンはじめ何人かの裁判を担当した)が「わいせつかどうかは裁判所が決めるんじゃ文句あるか(大意)!」と言っていたのと比べるとわいせつの認定については一歩前進ともとれるようだが、今の時代状況に即したわいせつの基準を出させたい(第一審から一貫してゾーニング論を主張してきたのも、その辺を睨んでのことだろう)、という弁護側の目論見は外れたということになるよなあ、やっぱ。
この事件に興味を持っている人なら大抵知っていることだが、一連の出来事は平沢勝栄議員が警察に圧力をかけたことから始まったもので、別に『蜜室』自体が同時期の他のエロマンガと比べて特別に過激だったという事実はない(修正だけを基準にしても、もっと薄いものは沢山あったし)。それはつまり『蜜室』レベルのエロさがあれば、いやあれよりエロくなくても、警察の裁量次第でどのエロマンガ家も逮捕されかねない、という状況は大して変わってない、ということになる。ちばてつや氏が証言した控訴審の第4回公判終了後の説明会で、山口貴志弁護士は、活字のわいせつに対する基準をそのままマンガに当てはめたような第一審の判断基準では、ヤングジャンプに掲載されているマンガレベルのエロでも、当局のさじ加減一つで摘発されかねない(まあ実際にそこまでの事態にはならないだろうが)、という危機感をもってやっている、というようなことを言っていたが(あくまで私の私見だが、控訴審に入ってからは、無罪判決は勝ち取れないにしてもわいせつの新基準だけは引き出したい、という戦略を取っているような印象を受けた)、結局その懸念を払拭するには至らなかった、ということじゃなかろうか(これも細かいところはよく分からないのでかなり憶測ではあるが)。
松文館に関わっているマンガ家が受けている仕打ち(主に印税のピンハネ)を思うと、あの社長を始めとする松文館の経営陣には好感は持てないんだが、ここはいっちょう、今まで食い物にしてきたマンガ家たちのためにも、現実的には罰金払ってしまった方が良いんだろうけど、最高裁まで頑張って欲しいところだ。この裁判に限っては応援するよ。
もちろん、私が応援したところで大勢に変わりがあるわけないんだが。